再生可能エネルギー革命の津波に気づかない日本 2016

あの東北大震災と福島原発事故の2011.3.11から5年、日本ではマスコミもほとんど再生可能エネルギーの話題など取り上げなくなり、政府はもっぱら川内、高浜原発に続いてどこを再稼働させるかに最大の関心があるようです。そんな中、2016年3月9日に東京イイノホールで開催された自然エネルギー財団主催の国際シンポジューム『REvision2016』を聞いてきました。講演者やパネリストは、米、英、独、豪、中国、インド、世界銀行などの政策当局や研究所、民間企業の方々です。所属組織や地域等に偏らない世界の最前線の再生可能エネルギーの現状について、中立的で客観的なデータに基づいた情報が得られる、今の日本では非常に貴重な場といえるものでした。

世界の発電設備年間投資額 click to p14

世界の発電設備年間投資額推移 click to p14

朝10時から夕方6時過ぎまでぎっしり詰まったセッションを聞き終えて感じたこと・・・・。それは、今まさに世界の津々浦々で『再生可能エネルギー革命』の大津波が押し寄せていることに、日本が気が付いていないということでした。悲しいかな日本は、背後に迫る怒涛の大津波に気付きもせず、見ざる聞かざる言わざる状態で小さくちぢこまりひたすら古き時代の夢想にふけっているかのようです。確かに、日本では福島原発事故を契機に原発の安全神話崩壊との対比で否応なく再生可能エネルギーへの注目が集まりました。くわえて先進国に大幅に遅れながらも辛うじて導入された再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)のおかげでこの4年間でやっと総需要電力の3%程度まで再生可能エネルギーのシェアが伸びました。しかしドイツのような新たなエネルギー転換(エナジーベンデ)への大胆な政策対応はほとんど無いどころか、ここにきて原発再稼働への政治志向のもと、再生可能エネルギーの政策対応は大幅に抑制されつつあり、新産業への事業者の熱い思いも急速に失われつつあります。なぜこんなことになるのでしょうか?

私たちが日本で見聞きする情報と世界で実際に進行しつつある事実との間には、どうもギャップがあるように思われます。たとえば、福島原発事故を受けて真っ先に果敢に政策転換して再生可能エネルギーへの道を進むドイツに関して、①再生可能エネルギー買取賦課金で電気代が大幅に値上がりしていて国民は皆怒っているとか。②ドイツが原発廃止にできるのはフランスから電気を購入しているからだとか。③再生可能エネルギーの発電は不安定だから大停電が起きるとか。④原発停止での電力不足を補うために石炭火力を大幅増強しているとか。などなど、だからドイツのエネルギー転換は大失敗という報道が日本では当たり前のごとく多く流れてます。しかし、実際にドイツの現場からの情報をしっかり確認するとこれらの情報は事実に反していたり、事実の一部分を切り取った誇大表現だと分ります。ドイツのエネルギー転換の失敗を結論付けるために情報が変わったようにさえ感じられます。新しい挑戦には必ず困難な課題が伴います。その一つ一つをできない理由として並べるだけでは新時代へのチャレンジなどできないでしょう。なぜ日本ではこんなことになるのでしょうか?

風力太陽光の発電コストは原発石油より廉価にclicktop7

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その理由を議論するのは、あまりに非生産的で空しいことです。日本を除く世界で起こっている再生可能エネルギー革命は、原発に不信感があるとか、石油などの化石燃料が二酸化炭素を排出するとか、再生可能エネルギーは分散的で安全だとか、そんなこんなの議論をすべて超えて、ただ一つの理由で革命的な津波になろうとしているように思われます。その理由とは、再生可能エネルギーによる発電コストが、日本以外の世界では既存のどのエネルギー(原発、石油、石炭、天然ガスその他)よりも安くなり始めた(※click to p10)ということです。さらに風力、太陽光等の初期設備投資は技術革新や量産効果で今後さらに安くなることがほぼ確実です。一方で、化石燃料はCO2問題で論外ですが、原発も一層の安全性投資や出口なしの廃棄物処理を考えれば発電コストは長期上昇傾向でしょう。こうして市場原理に基づく経済合理性から、より安く手に入るエネルギーとしての風力や太陽光発電を導入する機運が先進国はもとより、むしろ中国・インドなど新興国においても一気に盛り上がっている。そして人類にとって最大の幸運は、中東など地球の一部に偏在するがゆえに様々な歴史的紛争の種になった石油等と異なり、再生可能エネルギーは世界に広く平等に無尽蔵にあり、クリーンで環境にもやさしく、導入が短期間で簡便なため個人から大企業まで広く参入することができ、エネルギー生産とその利益を自分の手に取り戻すことで個人や地域の自立にもつながり、さらに地産地消的分散効果ゆえに地域の災害対応や国の安全保障にもかなっているということです。

馬車時代がT型フォード一色にわずか13年

馬車時代がT型フォード一色になるのにわずか13年 click to p39

しかも、この流れは激しく、直近3年から4年で加速化しているようです。発電の変動性と広域分散ゆえにIT技術を駆使したスマートグリッド(配電網)が不可欠となりつつあり、社会経済構造のあり方さえ変える産業革命的性格も見えかくれします。かって1901年にT型フォードが販売されて、それまでの馬車の時代がわずか13年後には消滅した歴史もあります。情報化社会の今はその当時よりもっと流れのはやい動きも想定すべきでしょう。時代のうねりを鋭く見通し、その奔流に逆らわない様果敢な意思決定と行動力が求められます。すこしでもぼんやりしたり逆走していると大きく取り残され、甚大な機会逸失と計り知れない不利益を国民が被ることになるのでしょう。本来なら東北大震災を契機に一気呵成にこの流れに乗って新しい成長産業の時代を築く勇気を持つべきだったのでしょうが、その千載一隅の意思決定チャンスはドイツに献上して、どうやら日本は途中下車して自閉症の殻に閉じこもるのでしょうか。残念ながらトップダウンに期待できない今、せめて草の根的であっても再生可能エネルギーの導入に智慧をしぼる人が一人でも増えることを祈らずにはおれません。

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