南イタリアの旅⑥・イタリアのお守りで幸運を!

イタリアに来て4日目の朝はいつもの様にけたたましいニワトリの鳴き声で目覚め、いつもの様に庭先のレモンの木の下で朝食をとった。でも今日は月曜日、特別な日になりそうだ。先週の土曜日にソレント駅前のD銀行ATMが飲み込んだクレジットカードを何としても取り戻さなくてはならない。その時のいきさつはこちらに書いた。緊張と戦意に満ちていつもの曲がりくねった細いローマ通りをマッサ・ルブレンセのセンターㇸと登っていく。バス停の少し手前にあるタバッキ(Tabacchi)に寄る。Tマーク看板のこのお店はイタリアの街角ならどこにでもあるタバコ屋兼バス切符(Biglietto)その他何でもありの小さな雑貨屋だ。この国のバス切符は行き先に関係なく乗車時刻から60分、90分、120分といった具合に時間定額制だ。ソレントまでと言えば60分切符€1.30をくれる。乗車時に乗車口近くの刻印機と通して時間を印字して乗車時間を管理する。ときたまチェックされて刻印がないと罰金をとられるというがそんな場面を見たことはないし、何回も刻印をわすれて乗車していたように思う。

この日、そのタバッキではちょうどバス切符の在庫切れで売れないという。バス停(fermata)にはすでにバスが待機していたので急いで別のタバッキらしき店に飛び込むも切符はない。一般的にこの国ではバスの運転手は切符を持っていないことが多いらしいが、バスのそばで携帯をかけている運転手は肩から切符の入っていそうなバッグをかけていた。彼が運転席に戻るころ合いをはかってソレントまでの切符はあるかと尋ねた。
「No」と言って首を横に振った。
「近くのタバッキに行ったが切符は売切れでないといわれた。どうしたら良いでしょうか?」
運転手は一瞬考えて、手でバスに乗れと合図した。結局、この日の朝はソレントまで無料でバスに乗った。切符を売る場所もいい加減だし、在庫管理もいい加減だし、バスの運転手もいい加減。でもこんないい加減なイタリアが好きになってきた。それは良い加減なのかもしれない。
しばらく後になって、切符を確実に買えて便利なのはバール(Bar)だと知った。バールはまさに日本のバーにも通じるカウンター併設の飲み屋のような場所。イタリアの定番コーヒー、エスプレッソを一飲みするだけでも良いし、酒はもちろん軽食も提供してくれる街角の気軽で便利な存在だ。
さらに旅行者がスムースに移動するだけなら、割安の1日切符や2日切符を買っておけばどたばたしないで済む。でもこうしたドタバタやハプニングを通してイタリアの生活文化や人情に接するのも旅の何とも言えない楽しみでもある。

そんなことを考えているうちにバスはソレント駅前に着いた。駅前の坂道を下りCorso Italiaという大通りの向かい側の公園沿いにその銀行はある。銀行の店内に入ってどう話を展開するか頭を整理して、いざ店内へと思ったとき、難問は店の外にあった。
店舗の入口と出口は1人がやっと入れるカプセル状で、まずは緑のボタンを押してカプセルに入り、そこで金属探知等の自動チェックがされて問題なければ店内側のドアが開く仕組みのようだ。先にカプセルに入った若い女性がカプセル内でゴソゴソしているうちに入ったばかりの外のドアが開いて少し興奮した様子で立ち去って行った。持ち物に問題があり入店を拒絶されたようだ。入口の注意書きを見ると、通信機器や金属ものや大きなバッグ等は横にあるコインロッカーに入れてから入れ、とある。コインは荷物を出した後返却されるようだが、何しろロッカーが小さい。タブレットが入ったリュックなどおよそ入りそうになかった。いっそロッカーの上に誰かが置いているヘルメットの様にバッグを置くことも考えたが、イタリアでそれはあり得ないことだろう。しかしそれにしてもこの厳重さの日本との違いは何なのだろうか。さてどうしたものか・・・

2日前の土曜日、ここのATMにカードを飲み込まれた後、少々がっくりして300mほど先のソレント中心ともいえるタッソウ広場(Piazza Tasso)へ向かった。その広場の一角にはソレント半島中央部で大規模にアグリツーリズモを展開している農場(Fattoria)のアンテナショップ的雑貨店がある。店内を物色し小物を購入するうちにめっぽう明るい店員さんと言葉を交わすなかで、銀行ATMでのハプニングの話も心配そうに聞いてくれた。是非とももう一度銀行に行って返還交渉すべきだとアドバイスしてくれたのが彼だった。

ということでリュックをそのお店に預け、再びD銀行に戻り入口のロッカーに携帯電話などを保管していよいよ銀行内部に入った。受付らしきカウンターもないので、一番近くの机にいるベテラン風の女性に声をかけ、土曜日のATMでの状況を説明。パスポートや署名など本人確認が確実にできるのでカードを返してほしい旨伝えた。
「銀行の規定に従ってそのカードは拘束されており自動的にカードの発行銀行に送付されるので返却はできません」
「これから10日余りイタリアに滞在するが現金の持合せは十分ではない。宿や食事その他の支払にあのクレジットカードは不可欠なので是非とも返してほしい」
「外国旅行ではこんなこともあるのでカードは複数持参すべきなんですよね」というベテラン女史の言葉に少々カツンと来ながら、しばらく押し問答したところで、「すこし待ってください」と言って女史が奥に入っていった。

奥から比較的若く温厚そうな店長らしきマネージャーがでて来た。少しほっとしながら、再度状況説明とカード返還の必要性や最近作ったばかりのカードで暗証番号を使い慣れていなかったこと、さらに本人確認が可能なことなどしっかり説明、返還をお願いした。じっと聞いていたマネージャーはゆっくりと、「パスポートのコピーを取らせていただけますか」と言った。それからしばらくしてマネジャーがパスポートとあのクレジットカードを持って奥から現れた。助かった!マネージャーに丁寧にお礼を言って、あの受付女史の前を通ると、「よかったわね!」と言わんばかりにニコニコして見送ってくれた。

カードが戻って一番派手に喜んでくれたのはリュックを預けたアグリツーリズモのお店 Fattoria Terranovaの店員Robertoだったかもしれない。カードも戻ったことだしこんなに喜んでもらってはさすがにお礼に何かを購入してあげないといけない。ソレント土産として洋皿を何枚か選んで、にっこりしながら帰ってきたばかりのクレジットカードを渡した。
「じゃ、ここにpin codeを入力して」と、ちいさな端末を差し出してきた。
「えっ!サインじゃいけないの?」
「サインは使えない。数字四桁の Pin Codeを入力して欲しいんだけど・・・」
「日本ではクレジットカードは署名でOkだけど? Pin Codeは数字四桁の暗証番号だよね?
その番号を入れ間違えてカードがATMに飲み込まれた訳で、本当に正しい番号がはっきりしない。」
ここまで言って、ことの重大さに再び気が付いた。海外ではVISAカードが最も使いやすいということで出国前にドタバタとVISA系のANAマイレージカードを作った。そのカードは三井住友銀行カードも兼ねている。VISAとANAと銀行のそれぞれ用の暗証番号設定が要求され各々に登録したせいもあり、VISAカード用の登録番号が特定できなくなっていた。
「とりあえずもう一つ候補と思われる番号を入れてみよう。」と試みたがエラーで返された。これ以上間違うと3回エラーでカードそのものが無効になる可能性があった。さて困った、どうしよう。
Robertoに女性店員のSusyも加わって、どうすべきかいろいろ思案したあげくRobertoが言った。
「もう一度銀行に行って事情を説明して正しい暗証番号を教えてもらったらどうか」
「まさか、銀行に暗証番号を聞いて教えてくれる訳がないよ。たとえ自分自身の番号でも。」
「いや、もうそれしか残された方法がないのでやってみるべきだ。銀行へ行け!」と言う。日本の常識ではそれははなからあり得ないことだった。しかし、待てよここはイタリアだ。Robertoがそこまで言うのならイタリアの流儀があるのかもしれないと考え始めた。

再びリュックを預けて銀行に向かおうとしたところで、Robertoがこれを持って行けと言って棚から売り物の赤いトウガラシのようなものを取って渡してくれた。
「これはイタリアでは有名な Kornetto Rosso と言って牛の角を模したお守りだ。Ti Portera Fortuna! きっといいことがあるよ。」
先ほど会った銀行のマネージャーがいることを祈りつつ、またまた勝手知ったる銀行に舞い戻り中に入った。ちょっとびっくりした表情のあのベテラン女史に先ほどのカードの件でもう一度マネージャーに会いたいと伝えた。「どうしました?」と出てきたマネージャーに、先ほどカードは返していただいて感謝しているが、実はそのカードの正しい Pin Code が混乱して分からず大変困っている。日本ではクレジットカードはサインで使えるので Pin Code をあまり意識していないせいもある。これからの滞在費の支払いにもこのカードが必要なので、なんとかそちらで正しい Pin Code が分からないものでしょうか、ととんでもないお願いを低姿勢で伝えた。縷々説明するうちにマネージャが言った。
「これからの滞在にどのくらいのお金が必要なのですか?1000ユーロ位で足りますか?」
「そうですね。10日余りだから2000ユーロは最低ないと・・・」
「2000ユーロですか。うーん・・・」
えっ、マネージャーは一体何を考えているのだろう、融資の方法でも考えたのだろうか・・・
「分かりました。ちょっと一緒に外に出てATMのところにいきましょう。」
といってATMの前に行くと
「何回間違えてもいいですから Pin Code 候補の番号をどんどん入れてみてください。」
500ユーロの引出しをセットして数個のPincode候補から3番目の思い当たる番号を恐る恐る入力してみる。するとしばらく間をおいて、なんとATMがコトコト動いている。エラーの表示はない。次の瞬間、100ユーロ紙幣が五枚シュシュと吐き出されてきた。横にマネージャのニコニコした顔があり、思わず握手をしてしまった。grazie mille!感謝を込めて聞いたイタリア人店長の名前は失礼ながら忘れてしまったが、この支店長の『粋な計らい』は一生忘れることはないだろう。

「やったあ!」と言って、またまた大喜びしてハイタッチしてくれたのは、Fattoria Terranova のRoberto とSusy だった。棚からアップルワインらしき白い瓶をとり、グラスに注いでこれを飲めという。それはOrganic Aguriculutural FarmであるこのFattoria Terranova農場で生産されたワインだった。喉にしみわたって本当においしかった。
grazie mille!Roberto e Susy

先ほどまで強く降った雨も止んだ。にぎやかなタッソー広場から歴史の経過を感じさせる石畳の細い路地を足のむくまま進んだ。Monnalisaというオープンカフェで遅い昼食にやっぱりマルゲリータとビールを注文した。テーブル下の石畳にクックッと泣きながら鳩が寄ってきた。

 

南イタリアの旅⑤・カプリ島のラビリンス /

 

 

かしゅ。

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