土壌微生物を復活する農法が私たちの体と地球環境を救う——-福岡田川JA向け等最近の営農型PV視察向け講演プレゼンから

1920年代にドイツで発明されたハーバーボッシュの窒素化学肥料はその後の農作物大増収に著しく貢献し、世界の人口急増と前後しながら食料供給を賄ってきたとされる。しかし、その化学合成肥料と農薬を組み合わせる現代の慣行農法が今重大な岐路に直面しようとしている。その農法が不可避的にもたらす土壌劣化と温室効果ガス(GHG)排出、並びにそこから収穫される農作物の栄養素欠落という事実によって。そして、これらの側面はともに土壌微生物の減少に起因することが特に海外から広く認知され始めている。
そのことを裏付けるように、2024年12月にUAEのドバイで開催されたCOP28(国連気候変動枠組条約締約国会議)、気候変動対策に関する最も重要な国際会議では、初めて農業分野での誓約が日本を含めて広く世界の国々によって署名された。曰く「農業分野の気候・環境への悪影響を抑えつつ、好影響の最大化に向けて、生態系を護り、土壌の健康と生物多様性を促進することで、温室効果ガス排出型農法から温室効果ガスを吸収する持続可能な農法に転換することを誓約する。」と。

土壌を耕すのは微生物と植物の根
近代農法にとってトラクターを使って土壌を耕起するの当り前で土に酸素も供給されるので不可欠かつ良いことと信じてきた。しかし、米国シアトルのワシントン州立大学のR.モンゴメリー教授の下記三部作を読むとその思いが一変する。鋤の発明こそが農耕文化とその後の文明の発展の基礎であったはずだが、それはあの化石燃料に依存して発展した産業革命以後の経済社会と同様に、自然が未曽有の時間をかけて堆積した豊かな表層土壌を急速に消費浪費することにつながっているらしい。石油文明も耕起型の農業文明も短期的には繫栄したが、決して持続可能ではないのだ。今こそ持続可能性(Sustainability)を考え、さらに自然循環の再生(Regenerativity)を追求しなければ、私達の若者世代の未来は明るく展望できない。幸い今世界のあちこちで新たな動きが芽生え始めてはいる。あの米国では2000年以降、急速に不耕起栽培が広がりつつあり、最近では全農地の4割近くが耕さない方法に転換している。EUでは土壌に微生物を増やす有機農法が炭素を貯留することから、温室効果ガス(GHG)抑制の有力手段としてCarbon Farmingと呼称しながら強力に有機農業を推進している。

世界の土壌に含まれる炭素量は空気中の2倍で樹木の3倍とも言われ、その全土壌の37%が農地だ。その農地は表層部の数十センチの部分に有機物とそれを餌にする微生物の活動で膨大な炭素を貯留している。近代農法は土壌をトラクターで掘り返すことで、微生物の住家や微生物間のネットワークを繰り返し寸断する。さらに無機物の化学肥料と農薬を使って農作物を栽培することは、すなわち有機物と微生物が不要な農法であり、結果として炭素を空気中に放出する仕組みを作ってきたといえる。農業と食にからむ経済活動で温室効果ガスの3割が放出されているともいわれる。今、炭素を吸収貯留する有機農法が、温室効果ガス抑制政策としてこれまで手付かずだった最後の分野として主役の一つに躍り出ようとしている。

土壌微生物の減少は野菜の微量栄養素を劇的に減らす
微生物の減少で劣化した土壌は炭素を貯留しないばかりかもう一つ深刻な問題を引き起こしている。微生物の激減した土壌で栽培した農作物には、ミネラルやビタミンに加え抗酸化物質と関わりのつよいファイトケミカル(Phytocheical)などの微量栄養素が激減している。上掲の米国Rutgers大学のレポートでも明らかだし、日本の文科省の日本食品標準成分表をみても、1950年代の有機栽培作物に比べて現在の慣行農法による野菜に含まれる微量栄養素は半分から数分の一といったレベルに著しく減少している。これらビタミンや鉄、マグネシュームと言った微量栄養素は、土壌微生物が時間をかけながら有機物を分解し農作物の根に共生する菌根菌と連携しながら生成され農作物に吸収されるものだ。化学肥料はこの工程をパスして無機物としてのNPK窒素・リン酸・カリの主要栄養素を直接農作物に供給するのでビタミンや微量栄養素が農作物から欠落する。また農作物の摂取する栄養が窒素・リン酸・カリの主要栄養に偏重すると植物が不健康になり、害虫や病原菌の恰好の攻撃標的となる。彼らは弱ったり傷ついたりした植物を分解して自然に戻し生態系の循環を担う存在だからだ。その結果、近代農法では、化学合成肥料の施肥と農薬散布は不可分の関係となりやすい。
本来自然で健康な農作物は、紫外線や害虫その他のリスクに対して自ら抗酸化物質やファイトケミカルと言われるものを生成して自らの健康を護ろうとする。しかし窒素過剰で不健康だったり農薬で害虫や病気の脅威が人工的に除去されると自らの防衛本能は機能せず、人間にとっても貴重で重要な抗酸化物やファイトケミカルが野菜等から欠落することになる。

第二の脳と言われる大腸も微生物でコントロールされている
最近のDNA分析の進展で、人の腸内細菌と土壌の菌根菌の作用環境は非常に似ており、両者は人の食物摂取に伴う微生物移動を通して同期連動していると言われる。微生物が減少して劣化した土壌から生産した作物には人間に不可欠のミネラルやビタミンなど微量栄養素が少ないばかりか、腸内細菌として人間に不可欠な微生物そのものも少ないとされる。人のDNAの数は21,000個程度で、ミジンコの30,000個よりも少ないと言われている。にもかかわらず人が複雑な身体活動と高度な神経・脳の働きを維持できるのは、体内に住み着いている400万個以上の微生物のDNAが協力して人を支えているからだという。

内臓の中でも特に大腸はは単に消化器官の一つではなく、そこに集中的に共生する微生物が消化吸収機能を超えて、循環器系から免疫系や神経系の働きをもコントロール、ひいては人の心や感情の動きさえにも影響を与えてるいるらしい。腸は第二の脳と言われるゆえんだ。それほど人間にとって不可欠で重要な微生物を抹殺する環境を人間はこの100年間にわたりベストと考え展開してきたと言える。

私たちや子供たちの体と心は本当に大丈夫か
過去10年間で自閉症や発達障害とされる子供の数が2倍にしている。判断基準が厳密化したためとされることが多い。また、過去70年間、癌による死亡者数は一貫して増え続けている。日本の高齢化率上昇が最大原因と説明されるが、この数十年高齢化率は3倍程度なのに対し癌死亡者数は6倍程度にふえている。両ケースの因果関係を明確に判断するのは困難だろう。ただ農薬の単位面積使用量と自閉症・発達障害発症数は、いずれもほぼ比例して韓国と日本がダントツでその他諸国もそれぞれが概ね比例している。そして現在主力の農薬ネオニコチノイドと除草剤グリフォサートはいずれも神経系に障害を与える効能で有名だ。また、農薬使用をやめると激増するとのレポートもあるファイトケミカルはアンチエイジングなどの抗酸化作用や抗ガン作用があるとされる。
厚労省はミネラルやビタミン等の微量栄養素摂取のために野菜標準摂取量を一日当たり350gと定めているが、実際の平均摂取量は280g程度で特に若年層は少ない。しかも最も肝心なのはその野菜が有機野菜か慣行農法野菜かで、ミネラルやビタミンの摂取量が上掲の様に数分の一レベルに落ちてしまう点だ。いずれにしても有機野菜系を食べていれば全く問題ないが、一般のスーパーで買える野菜はほとんどが栄養価の低い慣行農法野菜だ。ミネラルやビタミンそしてファイトケイカル等の微量栄養素は認知機能を含む神経系や循環器系そして免疫系や心の部分を含め、人体と心の超複雑系システムのバランスと調子をコントロールする重要な物質だ。それは腸内細菌の微妙な調整コントロールとも連動する。現代人が、半世紀前の人々に比べ、体調と心にベールの様に霧がかかって元気がなく、思考力も落ちて持続力もないとしたら、腸と土壌の微生物およびこの微量栄養素の欠落が関係していないと断言できるだろうか。

 危機感の共有が一人一人の意識を変える
このような背景のもと、今世界はこれまでの化学肥料・農薬依存型農法やそれを前提の工業型大規模農業の見直しに動き始めている。EU諸国のほとんどは有機農地比率はすでに10%を超えており、数年後の2030年目標は25%だ。韓国もこの20年で10倍以上と急展開。広大な農地の米国でさえ有機農地比率は20年前の3倍0.6%台に広がってる。特に米国の場合は2000年以降4ヘクタール未満の米国としては非常に小型の農場が有機栽培と地域コミュニティ密着を売りに急増している。一方で日本の現時点の有機農地比率は米国の1/3、韓国の1/8程度の0.2%だ。世界の動きを意識してさすがに2050年の目標は25%と大きく設定するも、現況は農薬使用の規制緩和や食品表示の規制緩和など、食の安全性を重視する世界とは逆の動きもみられるのが気がかりだ。
英国ロンドンのスーパーでは4割前後の野菜がオーガニック有機野菜だという。米国でも有機野菜の市場規模は高まるばかりだ。それに反し日本では有機野菜はほとんど注目されない結果として市場規模もわずかだ。何がそうするのか。2000年以降の欧米の激変はその裏に人と地球環境の健康への危機感の共有があるからだという。日本ではなぜか危機に対する情報の共有と決断が欠落する傾向がある。しかし危機に対して見ざる聞かざるで、いつも何事も起きない幸運に恵まれるとかぎらない。世界が激変する今、私たちは一人一人が自ら情報を確認しながら判断して自分と自分の未来を守らせざるを得ない環境に直面しつつあるのかもしれない。多少高くても全で栄養素に不安のない有機野菜を食べ続ければ何かが好転する可能性が高そうだ。有機農業は主要栄養素も微量栄養素やファイトケミカルもたっぷり含んで健康に良いばかりでなく、有機物と微生物が土壌に豊富に復活することで、炭素も排出より貯留量の方が多くなり温暖化ガス抑制にもつながる。幸いにも私達一人一人が行動すれば世界が直面する危機への対処法がゼロではないのが救いだ。

 

営農型ソーラーで小規模有機農業(カーボンファーミング)を支える大胆な政策を!
営農型ソーラー(ソーラーシェアリング)の畑で、森の生態系を畝に移して糸状菌を広げる自然農
法の確認実践を始めた。無耕起、無肥料、無農薬で炭素は慣行農法の10倍貯留するとされる農法(Radical Carbon Farming)だ。微生物たっぷりの有機農法や自然農法は、平野部の大規模農業よりも中山間地域の小規模農業と相性が良い。米国の例でも有機農業の広がりと4ha未満の小規模農業の急増が対応している。州域の土地が狭い米国マサチューセッツでは、小規模農業と地域コニュニティがらみの営農型ソーラーを徹底して優遇する固定価格買取制度(FIT)を復活し、再エネ目標の段階的達成とも連動させる入念な制度設計を展開している。

有機農業の意義が十分に理解されていない日本では、有機作物選好の価格プレミアムもほとんどなく、小規模有機農家は手間をかける割には充分な利益確保が困難な状況だ。若い新規就農者の大半が有機農業を目指す希望があるも現状の市場環境は厳しい。世界の動きに押されて日本も2050年有機農地割合を25%にするとの特大の目標は設定したが、その達成にはマサチューセッツ州の様な余程の劇的政策転換が無ければ実現しないだろう。小規模営農型ソーラーには発電自家消費30%などの重い規制を課し、一方ですでに経営基盤を確立している担い手農家を優遇するのが現在の制度だ。これを抜本的に改め小規模でも真に人と地球の健康に優しい有機農業を目指す就農者には営農ソーラーの規制を大胆に緩和かつ復活FIT買取価格13円/kwh以上で支えるぐらいの政策実行ができる政治リーダーの登場をこころから願う。

営農型ソーラー畑での微生物を生かすカーボンファーミングに注目し始めたプレゼン

◇2024年1月、福岡県田川JA関係の皆様
わくわくソーラーシェアリング・ファーム見学と隣接の枯山水古民家 湧2庵でのセミナー


◇2023年11月と12月、安芸高田市SDGs研修センター(旧小田東小学校)でのセミナー


◇2023年8月、東広島市農業委員会女性部会ほかの皆様
わくわくソーラーシェアリング・ファーム見学とセミナー(高美が丘地域センター研修室)