環境エネルギー政策研究所(ISEP)は西アフリカ・マリ共和国のNGOであるMali Folkecenter Nyetaaと連携して太陽光発電と農業のコラボによるアフリカ諸国の食糧とエネルギーの安全保障のための活動を展開している。その活動の一環として連続公開セミナーも企画実施中で、2020年6月に第1回セミナーがコロナの影響下ZoomWebinarとして開催された。今回その第2回目となるWebinarが12月10日に「Agrivoltaics for small scale farmers」(小さな農家のためのソーラーシェアリング)と題して開催され、主題のプレゼンテイタ―として登壇した。シリーズを通してのセミナータイトルは「Farming meets solar power in Africa」である。※
ソーラーシェアリングは日本での公式名称は営農型太陽光発電であり、海外では一般的にAgrivoltaics又はAgriphotovaltaicsと呼ばれ略してAPV(営農型PV)と言われる。今回のオンラインセミナーは東京・広島・マリNGO会議室・マリ農業再エネ研修センターの多元中継で進行、終盤にはイギリスからの発言者も含めてのにぎやかな展開となった。リアルタイムでの聴講参加者は日本やマリはもちろんドイツ、フランスも多く、オーストリア、イタリア、ハンガリー、英国、米国などと多様で、営農型PVへの海外での関心の高さがうかがえる。このWebinarの一部始終は英語版であるが下記Youtubeでも無制限一般公開されている。マリ共和国の公用語はフランス語であり、事前にフランス語版のスライド資料がマリ現地の関係者に配布されたほか、動画にもフランス語版翻訳テロップが画面の発言に沿って流れる予定だ。
マリ共和国は西アフリカの内陸国家で北半分はサハラ砂漠の一部を形成している。国の中央から南部にかけてニジェール川が流れているため、南に下るにつれサヘル(岸辺)と呼ばれる半乾燥地帯、そして灌木の茂るサバンナの草原へと広がる。産業の8割は農業で綿花や陸稲さらに野菜のオクラなども栽培されてるようだ。人口1400万人の平均年令は非常に若く近い将来の人口急増と食料不足の深刻化が予想されている。一方で農村部の社会経済は非常に脆弱で発展途上国の中でも最貧国に属するといわれる。ほとんどが家族農業の小規模農業であり、年間降雨も僅かななかで雨水頼みの自家消費農業が大半、比較的大規模な農業も化学肥料や農薬の流通問題と環境汚染、土壌劣化などに絡む多くの問題に悩まされ、さらに昨今の温暖化による気候変動にも翻弄されている。エネルギーは都市部以外では僅かな薪への依存が多く電力網の整備はまだまだ程遠い状況のようだ。
そんな中、ここにきて温暖化による異常気象の猛威と世界的な再生可能エネルギー特に太陽光発電の普及とコスト低下がマリを含むアフリカの国々の地方の生活に大きなパラダイムシフトを起こそうとしている。一般電力の整備がない地方の農民が太陽光パネルを一枚二枚と設置、草の根的に発電を始め夜の明かりはもちろん井戸の電動ポンプ設置やパソコンでのインターネット接続による情報アクセスなど。人々の目の色が変わり始め、先進国からの様々な形での応援指導により地域住民向けに農業と再生可能エネルギーの研修センターを設置するなど、その動きが激しくなりつつある。こういう環境と状況の中でのソーラーシェアリング(営農型PV)の果たす効果と可能性は計り知れない。そのことに発展途上国だけではなく欧米の先進国も急速に気付きはじめている。
主題のプレゼン後に用意されたたっぷりの質疑応答時間であったが、多くの有益な質問であっという間に予定時間が過ぎた。たとえば、APVのパーフォーマンスはどんな指標で測定するのか。パネル回転式を含むAPVのコストと効果は?マリの日照時間は広島より3割以上多いので遮光率がもう少し高くても栽培可能な作物の範囲は広いのではないか。化学肥料や化学農薬を使用しない理由は何か。モジュール架台の材質について例えば金属以外など考えられないか。半乾燥地域で空気水分製水機とAPVを合体した仕組みはできないものか。そのほか時間内に回答できなくて後日メールで回答したものもあった。たとえば、作物の成長、品質、生産量へのAPV遮光の影響について一般露地栽培との比較データをつかんでいるか。APVは若い起業家や女性に対してどんな効用があるか。APVの可能性を生かすビジネスモデルはどんなものだと思うか。
特に最後の質問の英国シェフィールド大学RAは後のメールで、今まで東アフリカで実験的に導入された多くのミニグリッドプロジェクトが外部からの支援に依存していたことから結局失敗した事例が多いとして、APVがいかに自立的であるか、あるいは小さなAPVにどう金融をつけるか、が問われると指摘。その上で自己充足型でエネルギーも全て自家消費するプライベートな農業ビジネスのスキームの方がやり易いが、本当の意味での挑戦の醍醐味は、ローカルコミュニティに対してより直接的な衝撃を与える営農型PVによる地域マイクログリッドの創設だろう、という含みの多い言葉で終わった。
地域マイクログリッドを構成する再エネ発電所は小規模でも数が多いほど地域防災拠点としてのレジリエンス効果も高まり、また小規模ネットワークが様々なリスク分散や市民による便益活用・再エネ教育効果などなど多面的効用が大きい。今後日本でも各地の新電力会社をアグリゲーターとしてその地域の様々な再エネ発電所をネットワーク化する地域マイクログリッドへの挑戦が始まると予想される。その意味で今年4月の改正において事実上小さな農家の営農型PVへの参入を抑制したことが悔やまれる時期がいずれ来るのではないかと危惧している。
第4の産業革命ともいわれるAIと再生可能エネルギーの合体した今回の歴史的胎動をこれまでの発想やしがらみにとらわれることなく素直に正面から受け止めて積極的に生かす発想が望まれる。