2016年4月から始まる電力小売自由化に関する議論がかまびすしい。
安い電気料金を提示して、本業の商品を売るために顧客を囲い込む企業意図が目立ちます。電気代が安いのは悪いことではないが、複雑な仕組に翻弄されて他の部分で元を取られな様注意が必要でしょう。
それよりも、今回の電力小売り自由化の本当のすごさは、今後の日本のエネルギーの在り方をどう考えるかの政策決定にあなた自身が電力源の選択をとおして意思表示できるチャンスだという点ではないでしょうか。それは間接民主制のじれったさに辟易している今、直接民主制もどきで意思表示できる痛快さを秘めているということです。エネルギーをめぐる情勢は混とんとしており、確固たる将来展望は見えていません。ちなみに次の様な今年2016年の年初から1カ月余りの間に新聞等で伝えられた情報だけみてもおおよそ何を考えねばならかが見えてきます。
<老朽原発が続々と再稼働へ>
運転開始から40年を経過した高浜原発1・2号機の安全審査が合格し再稼働がほぼ確定した。2015年7月に決定された2030年のエネルギーミックスでの原発割合は20%から22%、その実現に向けて今後40基余の原発が再稼働に向かう。福島原発事故を受けて2012年に原子炉等規制法の改正で原発は原則40年稼働時点で廃炉と決められている。しかし高浜原発1・2号機は現在すでに40年以上経過しており、稼働期間を当初の40年から20年間延長して再稼働される見込という。今後再稼働予定40基のうち約半数は2030年までに稼働40年を超えることとなり、20年延長組になるだろう。安全基準の40年廃炉原則を破ってまで60年稼働を強行するのは、新規増設を想定しない場合、40年稼働で廃炉にすると2030年での原発割合が
15%にしかならないからだ。『原発依存度を可能な限り低減する』との公約にしたがえば素直に15%目標が妥当と思われるのだが。2013年9月から3年近く原発稼働ゼロの実績にもかかわらず、老朽原発を叩き起こすリスクを冒してまで原発割合を22%まで上げないといけない本当の理由は何か?他の電源では本当に賄えないのだろうか?
<2016年度の太陽光発電の固定買取価格を24円/kwhに引下げ>
再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)は、福島原発事故を受けて2012年7月に世界に大幅におくれてやっと導入された制度。2030年代の原発ゼロをめざし、再生エネルギーを一気に普及させるべく、当初は高い買取価格を維持するとの方針で1kwh当り税抜40円でスタートした。その後、2012年暮に政権が交代して原発ゼロ政策が見直しされると、買取価格も年毎に、36円、32円、27円へと大幅引き下げられ、ついに2016年度は24円になろうとしている。実に4年弱で40%の大幅引き下げだ。大量導入効果でパネル等設備部材の価格低下をそれなりに反映しているとは言え、新しい制度開始を受けて、わくわくする新産業時代の到来と一気に事業化精神を高めて参入した中小企業には余りにも過酷なハシゴはずしで、将来の事業展望が一瞬にして不透明化し、投資意欲はあっという間にしぼんだ。結果、2015年の太陽光パネル出荷額は前年比15%の減少となった模様だ。加えて一部業者の粗雑な設備設置が報道されるや、今度は出力2000kw未満の中小規模の太陽光発電設備の安全規制を強化のため設備の標準仕様を明確にするという。適切妥当な施工に対しても過剰な設備装備要請でコストが上がり、中小企業の息の根が止まらないことを祈るばかりだ。
<日本における再生可能エネルギーの発電現況>
従来型水力発電を除けば、日本の再生可能エネルギーの9割前後は太陽光発電が占める。風力やバイオマス、水力は相応の地理的要件と一定規模の設備が必要で投資額も大きくなる。その点、固定価格買取制度(FIT)による太陽光発電はほぼ日本全国どこでも日当たり良好な100坪程度の土地やスペースがあれば可能だ。しかも数百万円程度の投資で個人・法人だれでも経産省の認定後数カ月で稼働開始できる上に、以後20年間にわたって固定での価格買取が保証される。土地と資金があればメガソーラーでも可能で規模の上限はない。だれでも参加でき相応の利回りが期待できることに加え、事業リスクが比較的少ない画期的制度といえることから一気に注目が集まった。
FIT発電量実績 (億kwh) | 2012年 | 2013年 | 2014年 | 2015年予測 | 導入累計容量 万kw |
認定残容量 万kw |
太陽光(非住宅10kw以上) | 0.19 | 42.5 | 131.8 | 300.0 | 2,010.0 | 7,549.0 |
太陽光(住宅10kw未満) | 23.2 | 48.6 | 57.8 | 70.0 | 360.0 | 426.0 |
風力 | 27.4 | 49.0 | 49.2 | 50.0 | 38.0 | 234.0 |
バイオマス | 2.2 | 31.7 | 36.4 | 60.0 | 34.0 | 271.0 |
その他を含む合計 | 55.9 | 181.2 | 286.0 | 500.0 | 2,455.0 | 8,558.0 |
全量買取(FIT)の非住宅太陽光発電は、2012年7月の制度開始以来2,010万kwが導入された。原発一基の発電能力が100万kwとすれば20基分だが、実際は一日の稼働率が太陽光3時間に対し原発はその約5倍の15時間程度で原発4基分程度に相当する。分りやすいように上記表各年の実績は実際の発電量(買取量)で記載してある。原発一基当たりの年間総発電量は約70億kwhという。ちなみに日本全体の全消費電力量は現在も2030年も1兆億kwhと想定されており、2015年の産業用太陽光発電量300億kwhは総消費電力量の約3%、再生エネルギー全体では約5%を賄っている。
<再生可能エネルギー、日本の常識は世界の非常識>
上記表の認定残容量は、経産省のFITの設置認定は取得したが、まだ稼働に至っていない数値である。これには買取価格下落を見越した駆け込み申請分が多く含まれ、将来的にも稼働しない可能性分も含み制度上の問題部分である。しかし仮に半分4,000kwが近い将来稼働するならば、再生可能エネルギー全体の年間発電量は1300億kwhとなり、総消費電力の13%を占めることになる。非FITの従来型大規模水力発電の8.5%を加えると、いわゆる再生エネルギーの割合は21.5%となり、恐らく2020年までには2030年のエネルギーミックスでの再生エネルギー目標22%〜24%を実現してしまうことになる。下表の様に世界各国が猛烈に再生エネルギー比率を上げつつある中で日本は早々と目標達成で、以後空白の10年間なにをするのだろうか? 『再生可能エネルギーを最大限導入します』という公約がむなしく響く。 再生エネルギーの目標が高くなると不都合でもあるのだろうか?先進国の標準認識は2030年には再生可能エネルギーを40%以上にするのが常識だ!
ドイツ | 2025年 | 45% | イギリス | 2020年 | 30% |
フランス | 2030年 | 40% | EU | 2030年 | 45% |
スペイン | 2020年 | 60% | ポルトガル | 2020年 | 60% |
カリフォルニア州 | 2030年 | 50% | 日本 | 2030年 | 22〜24% |
あれほどの原発依存国のフランスでさえ2030年に40%の目標を設定している。日本は2030年までの空白の10年間を使えば比較的簡単に先進国最低ラインの45%程度の達成は可能と思われる。そうなれば、これほど安全性から環境問題まで様々な難問を発散する原発を、2030年時点で維持する必要性は感じられない。原発事故を起こした当事国で、かつ未だに10万人近い人が故郷を追われ人生を壊されていることを真摯に見つめるなら、ドイツでなくとも結論は明白のように思えるのだが・・・
以下その可能性を考えてみよう・・・ 前頁/次頁
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