2022年6月、わくわくソーラーシェアリング・ファームは京大で日本のソーラーシェアリングのリサーチ一をしていたイタリア人の見学訪問を受けた。その彼は現在2カ月間の日本滞在終えて南イタリア・シチリア島のパレルモに帰り、パレルモ大学でAgrivoltaics(APV=ソーラーシェアリング)の研究に関わりつつ、再エネベンチャーの太陽光コンサルタントとしても働いている。彼の訪問から半年、今回はパレルモと東広島と奈良をZoomで結んで、彼のAPVに関するプレゼンを聞き、欧州におけるAPVの爆発的普及の現状に触れた。Zoom会議参加者は、人類学の博士号を取得したばかりの彼の友達と私の奈良の友人二人の合計5人。
イタリアは今、欧州におけるAPV投資のメッカになりつつあるようだ。その背景として①欧州のコロナ禍からの復活と経済社会強靭化のための100兆円超の復興基金創設。➁ロシアのウクライナ侵攻による化石燃料需給危機への裏返し的対応としての一気呵成の温暖化対策。これらを受けて策定されたイタリア「復興・回復のための国家計画(PNRR=National Recovery and Resilience Plan)」が逸早くEU復興計画の一環として承認され、1,910億ユーロ(約27兆円)が配分されたことの効果が大きい。この資金のうち31%約8挑円がグリーン革命と環境移行に配分され、さらにその中の7,500憶円が持続可能な農業と経済循環分野に配分される。その多くがAPV向けだ。APV選択で再エネによる農地の収奪の懸念が消え、農業生産と再エネ発電が共存するだけでなく地域コニュニティや生物多様性の維持など様々なシナジー効果の理解が急速に浸透しつつある。
EU諸国では直近の環境激変を受けて、再生可能エネルギーの導入目標が頻繁に上方修正されている。ちなみにイタリアは2020年再エネ電力割合38%の実績に対し2030年目標は72%だ(日本の2030年再エネ電力目標は最大38%)。これを受け、太陽光発電導入は現況22.4GWを2030年には52GWに急増させる予定だが早くも85GWに上方修正の動きもある。なかでもAPVが注目で、復興・回復のための国家計画予算から11億ユーロ(1,500憶円)の助成金が2021年に決定済みで今年中に入札終了予定、さらに今年Agrisolareの名称で15憶ユーロ(2,000憶円)が農業関連施設屋根型PVの助成が決まっている。
APVの動きが急速に高まる中で、ここ数年来認可手続きの複雑さと認可までの時間の長さが問題視されてきたが、元EU中央銀行総裁の前ドラギ首相の大胆な改革と再エネ推進策で、APVの認可に要する時間は一般PVの半分になったという。加えてイタリア政府は今年6月、APVに関する詳細な導入ガイドラインを発行して情報を整理透明化することで新規参入を促している。
ドラギ政権は2021年2月誕生、初閣議で気候変動対策を政策の中核に据え、特別省としてのエコロジー移行省を設置、それまでの縦割り行政に決別しエネルギー問題を環境問題の一部として一括処理できるようにした。同省トップには著名な物理学者で研究機関や実業界での経験も豊富な人物を登用している。旧態依然として動かない中枢省とノンプロフェッショナルなリーダーばかりの日本の現状からすれば羨ましい限りだが。直近イタリアのAPVブームが単に直接かかわる農業関係省からの主張のみではなく広く横断的かつエネルギーと地球環境の将来を見据えたダイナミックな発想から動き始めていることが推察できる。
残念ながら、ドラギ政権は万全とは言えない薄氷の連立政権として誕生し、その後連立持続のキャスチング・ボードを握っていた政党「五つ星運動」が意図せぬ政権崩壊につながる小さな反乱を起こしたすきに、極右政党とも言われるメロー二の「イタリアの同胞」を中心とした右派連合に政権の座を奪われてしまった。
しかし、一度火のついたAPVモメンタム(勢い)は、その多面的潜在力と時代背景的要請とに押されて政権交代で簡単に萎むようにはおよそ思われない。むしろ日を追うごとにAPVへに期待は高まっているともいえる。ネットからいくつか直近でのAPV導入をめぐる熱い動きを伝える記事を紹介してみよう。
Italy’s Key Energy positions agrivoltaics, utility storage as new market drivers (2022/11)
イタリアの代表的太陽光博Key Energyは新しい市場牽引役としてAPVと蓄電池を掲げる:
コスト削減と環境保護の同時達成を可能とする新しいイノベーションを迎え、しばらく停滞気味だったイタリアPV市場には今年他のEU諸国と同様新しい楽観主義が胎動している。APVはイタリアのエネルギー展望のカギとなる市場推進力となりつつある。エコロジー移行省によると、APVの新規案件として現在338件のプロジェクト総発電能力15GW(発電量ベースで原発3基分程度)が審査中だ。ちなみに現在審査中の野立一般PVの申請案件は140件総発電力5GWに過ぎない。
There’s room for agrivoltaics (2022/12)
APVには大きな役割がある:
最近の研究では農業と太陽光発電を統合する革新的方法から生まれる便益が脚光を浴びている。農地の過剰専有リスクの問題は消えたばかりかその地域とローカルコミュニティにとっても大きな価値を創造するものだ。我々の科学的検証の結果、APVは熱波や乾燥など農作物のストレスを軽減しMicro climateの形成により作物の成長を促進かつ発電量にも好影響をあたえる。イタリアはEUの「REpowerEU」planにより2030年に再エネ発電を85GW達成が要請される。この脱炭素目標実現に必要な土地はイタリア全農地の0.6%に過ぎずAPV絡みで十分なポテンシャルがある。
NextEnergy developing 87MWp agrivoltaics project paired with battery storage in Italy(2022/9)
NextEnergyは、87MWのAPVに23MWのバッテリーを併設したプロジェクトをイタリアで進行中:
南イタリアナ・カンパニア州のナポリ郊外のこのプロジェクトは完成時敷地140ヘクタール、2メートル上空に設置のパネルはbifacial両面発電型で太陽追尾型となる。
このプロジェクトのコンセプトは「Agri-Eco-Voltaics」でパネルの下はいくつかに区分けし、家畜、園芸作物、養蜂、戸外家禽、大麻や薬草栽培、垂直栽培などを通して土壌力の回復も目指す。いずれにしても、農業と太陽光発電を融合する革新的技術によって直面する経済的社会的試練に立ち向かえるよう土地の最大有効活用が可能となる。
Germany to accelerate solar PV deployment
on agricultural land (2022/2)
ドイツは農地の上での太陽光発電導入を加速化:ドイツは再エネ電力割合を現在の45%から2030年までに少なくとも80%に引き上げる計画だ。そのためには追加で200GWの太陽光発電導入が必要で、その目玉としてAPV導入の加速化を打ち出している。再エネと農業が両立する土地の有効活用だ。それは、気候変動対策としての再エネ、自然維持と農業推進を同時に実現する「win-win-win」の関係をもたらすやり方だ。このメリットを生かし政府目標の200GW達成のためにも、新規開発がやりやすくなる様に現行の土地規制を破り捨てなくてはならない。
Food versus energy: Can agrivoltaic farming solve both crises? (2022/9)
食料とエネルギー:APVはこの両方の危機を救えるか:
英国保守党はこれまで太陽光発電嫌いだった。農地では作物を育てる農民を見たいので、パネルで一杯の農地は見たくないと。しかし今彼らがSolarとfarmingでgoogle検索すると、食料とエネルギーの両方同時の手軽な解決方法を知ることだろう。即ちAPVだ。
コロナ禍とウクライナ危機は食料とエネルギー価格を暴騰させ、気候変動へも破壊的影響を及ぼすとともに
食料とエネルギーの世界的リスクが急増している。
農業と再エネを合体させると、温暖化ガス排出削減し、生物多様性の保護をし、輸入化石燃料への依存を減らし、かつ農業の生産性を改善する強力な潜在力を持つことになる。もはや土地を農業と再エネで奪い合う必要はない。両者が同時に同一土地を活用できるwin-winの関係になる。ちなみに、ヨーロッパの耕作農地の1%にAPVが採用されると900GWの発電規模となり、それは現在の全ヨーロッパPVキャパの6倍に相当することになる。
太陽光発電をもっと広げることで、APVはネットゼロ移行への中心的役割を担うよう運命づけられている。再エネ開発が嫌われて追い出された英国の田舎でも、APVは歓迎されるだろう。APVは実際に同じ一つの農地の上で農業と発電を可能とすることで、同時に複数の関係者に利得をもたらすのだから。ここには膨大なチャンスがあり、市場は今まさに始まったばかりだ。