<ソーラーシェアリング・営農型太陽光発電の理論>
日影は農産物にとって光合成の邪魔になるから良い訳はない。そこで田や畑は日当たりの良い場所が選ばれ、住居は山すそや林のそばなど必ずしも日当たりが良いとは言えない場所に点在する典型的な里山風景となる。しかし、本当に水稲や野菜にとって日射は強いほど良いことなのだろうか。
ソーラシェアリング(営農型太陽光発電)の基本的考え方の肝はここにある。日射量の良し悪しは、農作物によって異なる。例えば一般的野菜で最も光を必要とするのはトマトと言われる。そのトマトでも7万ルクスを超えると光合成はもうそれ以上促進されなくなる。これは真夏の日中の光度が10万ルクス以上とすれば、その70%以下の水準だ。この光合成促進の限界ポイントが光飽和点と呼ばれ、農産物ごとに統計的理論値がある。5万ルクス以上の強光を必要とする一般的野菜は、スイカ、トマト、アスパラ、オクラ、キュウリなど限られている。野菜の大半は5万ルクス未満3万ルクス以上の中程度の光強度を好む。なじみ深いネギ ホウレンソウ、レタス、イチゴのほかパセリ、バジルなどに至っては、弱光線の半日陰を好み光飽和点は25千ルクス程度だ。日本最大の農産物水稲でも、光飽和点は45千ルクス。以上から推論すると、特に夏場の直射日光を3割程度パネルで遮光しても大半の野菜には問題ないように思われる。この点にいち早く気づいて実証実験をし、日本発の営農型太陽光発電すなわちソーラーシェアリングを考案した人が千葉県のCHO技術研究所の長島彬氏。それは今からわずか数年前の2010年のことだった。広く普及することを願い、敢えて実用新案権等の権利は主張せずオープンにしたと聞く。
さて本当にソーラパネルの下で野菜は理論通りに育つのか。これは2016年春から1年間にわたる広島県東広島市で試した実践記録だ。
<設備の仕様> 発電規模:38kw
小型115wパネル(51cm×148cm)333枚
夏期パネル平面時地表面遮光率:33%
直下面積790㎡ 東西50m南北20m不整形
支柱52本 支柱間隔 東西5m南北4m
パネル方位:真南から東11度
アーム方式でのパネル回転:△30度‐70度
<トマトの栽培記録>
トマトはハウス栽培が一般的で、露地栽培は難易度が高く敬遠されやすい。特に水の管理が難しい。収穫時期に雨に合えば急激な水分吸収で果実割れが頻発するし、土中の水分や肥料のバランス次第で尻腐れや立ち枯れも多発する。おまけにヨトウムシを放置すれば大きなトマトがたちまち穴だらけになる。カラスも真っ赤なトマトを虎視眈々とねらっている。さらに、ソーラーシェアリングとの関係では、トマトは光飽和点が7万ルクスと相当に高く充分な光を必要するとされる。そのトマトを最も日照的に不利な北寄りのパネル下に植えてみた。このトマトで成育に問題なければ他の野菜はほぼ全てクリアーすることになる。
3月に初めて完熟牛糞堆肥をすき込んだ。元肥はせずボカシ系の追肥とアミノ酸酵素液の葉面散布で対応することとした。3月末にトレーに種を撒いたが発芽が不調で、4月末にも追加で幡種。5月中旬第一弾をマルチ済みの畝に定植、続いて6月上旬第二弾定植。かねてから楽しみだった吊りっこの棚をパネルの支柱に設置、糸をたらして洗濯ばさみの様な吊りっこでトマトの茎を吊った。想定通り作業も非常に楽で効果的だった。一方で今年の梅雨は6月下旬から7月に入っても間断なく雨がつづいて芽かきなどの作業が滞った。日照時間が例年の半分とも言われる中、それでもトマトの成長は写真のように順調で、7月下旬から色づき始め出荷も始めた。パネルによる3割強の遮光は上記写真の様にトマトの成長にほぼ影響がないことを確認した。
しかし、今年2016年は全国のあちこちから野菜栽培の不調が伝わっていた・・・
<オクラの栽培記録>
オクラは、5月下旬と6月上旬に南寄りの畝に直まきして始まった。トレーやポットで苗を育てて畝に定植が推奨かもしれないが、手間を省くために種を直播きにしている。発芽率のロスをカバーするために一部の穴には2から3粒と多めに種を撒き、発芽無しの穴に随時補充移植する。オクラはトマトと違い比較的作りやすい野菜といわれる。光飽和点はトマトほど高くはないが強い光を好む。今回の栽培位置はパネルの南側で、朝夕の長い日差しがパネル下にも入ってくるので問題ない。写真のように通常の露地栽培との差は感じられなかった。
ところでオクラは何語でしょうか。以前ナポリ近郊のアグリツーリズモ農家に滞在中、出会ったドイツ人にどんな野菜を栽培しているのか聞かれて、『オクラ』と言って特徴を説明したら、オクラで十分通じた。英語でOkraと書く。原産はアフリカでインド系が江戸末期に渡来したとか。
<茎ブロッコリーとレタスの栽培記録>
5月上旬、パネル下中央部分300㎡に完熟牛糞堆肥を軽トラ2車すき込み。8月上旬、アミノ酸酵素液と米ヌカで作ったボカシ30㎏に自然系害虫忌避効果のあるニームケーキを混ぜてすき込む。 9月上旬マルチ畝作成とともに、トレーに茎ブロッコリーと通常ブロッコリーの種をまく。雨続きで全体の作業が10日から2週間遅れているので、収穫時期も大幅にずれ込むと予想される。
ブロッコリ―は夏野菜でもあり冬野菜でもある。冬場の太陽は高度30度程度の低い位置を移動する。ここは回転式パネルなので、この時期はパネル角度が太陽に直角の約60度に設定してある。結果、パネル下の地表面の遮光率は70〜80パーセント以上に上昇していると思われる。光を充分必要とする野菜には過酷な環境かもしれないが、茎ブロッコリーやレタスは写真の様に冬場のパネル下でも元気に成長して収穫可能となっている。もちろん発電を犠牲にするならパネル角度を△30度(北向)に設定して遮光率ゼロにすることも可能ではある・・・
ところで、茎ブロッコリー(スティック・セニョール)は青汁の元であるケールに近い中国野菜のカイランとブロッコリーを掛け合わせた栄養価の非常に高い野菜。5百円玉位になった頂花雷を摘芯することで、側花雷がどんどん伸びて15センチ位で次々収穫できる。アスパラの様に伸びた茎も食べるのだが、柔らくて甘味もあり断然美味しい。さらに若葉も一段と栄養価高いSuper Greenとして、ほうれん草風に料理したり青汁的にスープにしても苦みが少なく美味しく食べられる。
レタスはブロッコリーと同様に夏野菜でもあり冬野菜でもある。しかも半日蔭で育ち、ブロッコリーのそばに植えると害虫忌避効果のあるコンパニオンプランツだ。さらにブロッコリー用のマルチ畝に並べて植え付けるとブロッコリーが大きくなる前に、2か月くらいで収穫できる上に収穫後の穴はブロッコリー用の追肥に使える。良いことだらけだ。
以上、ソーラーシェアリングのパネル下で野菜は本当に育つのか?
答えは、もちろんYESである。
ただし、平面遮光率は三分の一程度を超えないことが肝要と思われる。
因みに上記実証実験では、パネル回転は最大発電角度設定をむねとしたため特に冬場の遮光率が上がることはあっても、日照確保のための特段の回転操作はしていないので念のため。
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