師走も半ばを過ぎた2019年12月16日、中四国農政局の拠点がある岡山にて農水省と環境省共催の「地域と再生可能エネルギーに関するセミナー」が開催され、「営農型太陽光発電が農業と地域を元気にする」をテーマにソーラーシェアリングの現状・課題・可能性について話す機会を得た。当日は、第一部で農水省本庁や環境省から最近の地域をめぐる再生可能エネルギーに関する政策動向についてのプレゼンがあった。さらに休憩をはさんで第二部で、鳥取県岩美町の農業委員会、当方東広島市のわくわくソーラーファーム、徳島県の徳島地域エネルギーから、再生可能エネルギーの現場での取組報告がされた。
農水省のプレゼンでは、農山漁村に豊富にある土地、太陽光、水、バイオマスなどの地域資源を活用して地域活性化につなげると同時に災害に強い地域づくりのためにも自然エネルギーの地産地消が重要だとされた。そのながれで営農型太陽光発電についてもページをさいて説明が加わり始めたのが印象的だった。また環境省の話では、地域の再生可能エネルギーを活用して地域でお金が回る仕組みを創り、地域からの所得の漏れを抑えて地域循環共生圏を目指すと・・・いずれも再生可能エネルギーが地域活性化につながるとの認識では共通していた。経済・社会・環境の統合的取組のもとシナジー効果を引き出しながら課題の一括解決を目指すべしという国連のSDGs(Sustainable Developmet Goals)の考えが色濃く反映し始めているように思われた。また個人的には提示資料の地球の限界(Planetary Boundaries)のグラフが目を引いた。気候変動や土地利用変化が地球限界を超えつつあるのは周知のとおりだが、窒素・リンが地球限界をはるかに超え高リスクに達してしまっているという事実に驚いた。窒素化学肥料や農薬を多用する大規模農業が様々な形で地球環境を急速に蝕みつつあるとの分析から、国連は最近、エコバイオに親和性のある家族農業や小さな農業の重要性を再評価しその権利を守る宣言を出している。SDGsの理念にはこの観点も多様に含まれていると思われる。
一般社団法人徳島地域エネルギーの豊岡和美さんからは、日本では多くが無駄に捨てられている熱エネルギー活用の観点から小規模バイオマスボイラーについての話がなされた。オーストリア製の小型ボイラーが最近急速に廉価となりその性能も格段に向上しているという。例として徳島県上勝町の椎茸栽培プラントの事例が紹介された。上勝町は高齢者の料理装飾用葉っぱビジネスで有名だが、一山超えた向こうには東京等からのITベンチャーのサテライトオフィス等が集積して、地方創生の聖地ともいわれる神山町が接している。シナジー効果を享受しながら、地域から日本を変える熱気を発散しているようだ。
当方のプレゼンは、中山間地域の小さな農家を代表して営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)の概要を説明した後、千葉大学等が全国の農業委員会を対象に実施したソーラーシェリングに関する大規模実態調査の報告書をベースに、ソーラーシェアリングの現状と課題そしてその可能性について小1時間話した。
①現在全国にソーラーシェアリングといわれる太陽光発電設備は1500個所以上あるが、その大多数で栽培されている農作物は、ミョウガ、榊、ふきと言った一部の日陰作物に大きく偏り、一般野菜の栽培事例が少ない。
➁「ソーラーシェアリングの下では十分な営農はできないと思う」との多数の調査回答は、本来のあるべきソーラシェアリングに接する機会の少なさからくる誤解と思われる。ちなみに現行設備の90%以上が遮光率33%以上かつパネル高3m以下であることが調査報告に示されている。これではトラクターも使えずまた光飽和点の理論からいってもまともに農作物の栽培はできない。逆に言うと、わくわくソーラーファームの4年間の実績が示すように、遮光率33%以下かつパネル高3m以上なら、ほぼどんな作物でも問題なく栽培できる。
③「わざわざ農地の上で太陽光発電しなくても良いのでは」との多くの調査回答に対しては、特に中山間地域の平均的な小規模稲作農家は赤字構造定着でもやは持続不能な状況にあり、このままでは農地の維持はもちろん里山の多面的機能維持も困難である。しかしソーラーシェリング導入があると売電収入に加え、パネル下での野菜等の高収益化で資金循環がはじまり持続可能性が見えると同時に、様々なシナジー効果が生まれて農家と地域が活性化する。米国では最近営農型PVの評価が急上昇しつつある。マサチューセッツ州ではその多面的効果に着目し営農型PVには売電の買取価格を6セントも特別加算する措置も設けて推奨しているほとだ。
④「ソーラーシェアリングが後継者確保につながるとは思わない」との多くの調査回答は、ソーラーシェアリングが農業施設として様々に活用でき、農業の面白さを引き出し若者を農業の魅力に目覚めさす力をもつことに気づいていない。トマトの吊り下げ棚、防虫防鳥ネット囲い、水気耕栽培装置や椎茸ハウスなどなどソーラーシェリングは支柱や梁を活用した創意工夫に事欠かない。稲作経営だけでは考えられない農業への意欲と活力が生まれる。
⑤「許認可や3年毎の更新業務の煩雑さと平均単収の8割維持基準の判断と対応の難しさに担当窓口も困惑気味で前向きに推奨したくない」との調査回答について、これは制度上の問題であり、ソーラーシェアリングを推進するのか抑制するのかということ。現行の手続きや判断基準は行政と農家の双方にとって気力を削ぐ方向に作用している。判断の難しい平均単収8割維持基準ではなく、遮光率33%以下3m以上の仕様を標準基準として制度化し、転用更新もこの標準仕様の場合は一律10年とすることで窓口の判断の難しさと手続きの煩雑さを激減させることができる。
個人的には、ソーラーシェアリングを設置しなかったらここまで活発に野菜栽培等に夢中にならなかっただろうし、親から引き継いだ稲作もコンバインなど大型農機具の更新タイミングで廃業し耕作放棄しただろう。わずか38kwのソーラーシェアリングだが、中山間の小さな農家にとってはそれほどプラスインパクトの強いものだ。気候変動が海外では気候危機といわれ始めるほど、脱化石燃料で温室効果ガスの排出を止めることが世界の第一優先課題となっている。RE100やSDGsの歴史的うねりに背けば国際社会の中で環境タダ乗りの迷惑なのけ者的存在となりかねない時代だ。一方で、脱化石燃料をチャンスととらえ再生可能エネルギーをベースとした経済社会構造にパラダイムシフトする先見性が地域や国のリーダーにあれば、わくわくする時代の到来になる。人口19万人の東広島市がその農地10%にソーラーシェアリングを設置するだけで、生活用電源はほぼ100%自然エネルギーで賄えるし、同時に域外に流出している100億円近いお金が毎年域内で乗数的に拡大循環することになる。
セミナーの翌日、農水省の方々に広島から環境省及び東広島市役所の方々も加わって、当方の営農型太陽光発電サイト「わくわくソーラーファーム」を視察訪問された。あいにくの雨模様にもかかわらず設備概要や農業施設としての活用状況、オフグリッド発電によるハイポニカの水気耕栽培状況など質疑応答を交えながらじっくりと見学。パネル下の畑ではブロッコリと茎ブロッコリーが実をつけて成長中、グリーンリーフレタスも出荷スタンバイ状態。水気耕実験ミニプラントではレタスが展示アートのように綺麗に盛り上がっていた。
その後当方宅に移り、同じく自然バイオエネルギーの薪ストーブを囲んで、地方や中山間地域の活性化と自然エネルギ―の役割、とくにソーラーシェアリングの可能性と今後の展望などの意見交換。折しも12月に入ってFIT(固定価格買取制度)終了に伴うソーラーシェアリングの取り扱いなど部分的に伝わる情報では、災害対応を含めた地域活用電源で50kw未満の低圧設備についてはFITが継続されるが、ソーラーシェアリングについては10年更新対象の認定農家等に限るとの見方が出ていた。せっかく中山間の小さな農家にもわくわくする時代到来と喜んだのもつかの間、農業所得500万円以上を条件とする認定農家のほとんどいない中山間地域の平均的小規模農家にはその元気ツールを活用することさえ許されない時代が戻ろうとしている。東広島市の農家数6500戸のうち認定農家はわずか70人と30法人。小さな農家の集合体である中山間地域でこそソーラーシェアリングが経済・社会・環境を統合するかたちで多面的効果を発揮すると思われるのだが、この国の未来はどこに向かいつつあるのかまた霧が拡がり始めたようだ。
皆さん、薪ストーブの心地良さに包まれ離れがたい様子で議論は続いた・・・