1997年京都で「地球温暖化防止京都会議(COP3)」が開催され、いわゆる京都議定書がその後の温室効果ガス削減にむけた世界的うねりの発端となってからすでに四半世紀の時が流れた。この間、確かに脱化石燃料としての太陽光発電や風力発電など再生可能エネルギーの導入進展は加速度的で目を見張るものがあった。しかしそれにもまして地球の平均気温の上昇によると思われる自然災害の巨大化、北極・南極・シベリアや氷河の氷の融解など自然環境の悪化が想定以上のスピードで先行していることを思い知らされる日々となっている。人類の先見力と決断と実行力が、その存在の持続可能性を賭けて問われようとしている。
その京都会議を記念して設立された京エコロジーセンターの主催で自然エネルギー学校・京都2021が5回シリーズで開催されている。その第2回目でソーラーシェアリングの実際と2050年脱炭素シナリオにおけるソーラーシェアリングの役割についてプレゼンした。
<ソーラーシェアリングの実際>
ソーラーシェアリングは千葉県のCHO研究所が発祥地とされるが、今やその主要舞台は海外に移ったようだ。海外では営農型太陽光発電の直訳に近い Agrivoltaics (APV)と呼ばれる。昨年フランス主催で第1回のAgrivoltaics世界会議が開催され、今年はドイツがホスト国でAgrivoltaics2021が6月に3日間にわたってWebinar開催された。来年はイタリアがホスト国の予定だ。ヨーロッパに限らずアジアでも米国でも、APV(ソーラーシェアリング)の持つ多面的なポテンシャルに気づき、各国の積極的な政策も引き出しながらその研究と実践が一気に進みつつある。
そんな中、残念ながら日本は2013年に通達で厳しい条件付きで設置を認めたものの、①太陽光パネルの下で十分に営農できないと思う。➁農家の後継者の確保につながるとは思わない ③わざわざ農地の上で太陽光発電をしなくてもよいと思う。との行政サイドの思い込み的呪縛から逃れられずにいる。
その結果、ソーラーシェアリング農地では農作物の収穫量がその地域の同一作物の平均的単収の8割を下回ってはならないという厳しい条件が今も厳然と生きてソーラーシェアイングの普及を抑制している。農作物の収穫量は年毎の気候変動や農業技法で大きく変わるし、近隣では優良農地がどんどん耕作放棄化しているにもかかわらず。
遮光率が1/3以下でパネルの高さが3m以上であれば、どんな作物でも問題なく成長し営農に支障がないことはこの6年の経験で明らかだ。さらに5mごとの支柱が様々な農業施設化の工夫を生み農業を楽しく儲かるものに変える。若者や後継者を惹きつけない訳がない。里山で半農半エネ+Xの新たなライフスタイルを目指す小規模な農業者にこそソーラーシェアリングでベースインカムを確保して存分に活躍してほしい。農薬や窒素肥料などによる環境負荷を抑え、里山の生物多様性と地域コニュニティを持続可能にするのはこの小規模な農業者が主役なのだから。
<待ったなしのゼロカーボン対応と問われる日本の本気度>
昨年10月に日本が遅ればせながら2050年ゼロカーボン宣言をしてから早くも1年が来る。その間2050年に向けた洋上風力発電の大規模導入構想が出され、一方で原発新増設への動きも目立ち始めた。原発は論外としても、洋上風力はリードタイムが長くさらなる技術蓄積が必要ながらも主要再生可能エネルギーの一つとして相応の役回りが期待される。しかし世界の温暖化による気候変動は年毎に暴力的となっておりとても30年先に何とかと言える段ではなく、これから10年弱の2030年までに温室効果ガス排出抑制の目途が相当程度みえないと地球環境悪化への負の連鎖が開始するとの研究もある。このあたりの危機感は日本国内と海外では大きく異なる。ドイツ在住の日本人ジャーナリストのレポートでは「日本にお住いの人は感じないと思いますが、欧州は二酸化炭素削減と経済グリーン化一色です。欧州の政治家は気候変動を人類にとって最重要の政治的課題と見て、対策を取り始めています。」と伝える。
これまでの10年は、日本の再生可能エネルギー対応がどんどん世界から遅れてしまった10年だった。その無作為体質に決別してこれからの10年、日本は目の色を変えて温室効果ガス削減に劇的に取り組めるのだろうか。風力頼みは10年以上先のこと、原発は論外、メガソーラーは環境破壊的で大規模用地のめどはたたない。日本で最も活発だった太陽光発電、特に50Kw未満の低圧設備が2020年から自家消費30%が設置要件となり実質的に固定価格買取制度もほぼ終了することとなった。こんな状況の中、一体どう再生可能エネルギーをベース電源にするのか。しかも一方ではグリーンリカバリー、グリーン・ニューディールが今後の世界各国の長期的経済発展への起爆剤となる蓋然性が高い。
<日本の2050年ゼロカーボンに向けたソーラーシェアリングの役割>
公表されている様々な分析情報をよく見ると、どうやら一つだけ比較的即効性のありそうな方策が残っていることに気付く。しかもSDGsが言うところの環境・社会・経済の三側面を統合的に取り組むことで諸課題の同時達成とともに地域の自立・活性化へのシナジー効果も期待できる全体最適の可能性を秘めている。それが小規模農業も広く対象としてソーラーシェアリングを全面的に取り込んだ地域マイクログリッドの形成である。 その主役は、全国にほぼ平等に存在する農地のソーラーシェアリングと住宅建物ソーラーとEV(電気自動車)の三者である。しかも規制さえ解けば導入リードタイムは相当短く、かつ様々な副次効果を生み出すことも予想される。
自然エネルギーのポテンシャルに関しては、ロイヤルダッチ・シェルがいずれ太陽光発電が圧倒的シェアを独占すると予想し、オレゴン州立大学も、世界の農地の1%弱が営農型太陽光発電(Agrivoltaics)になるだけで全世界のエネルギー需要が賄えると試算している。驚くべきは日本の環境省も最新の詳細な再生可能エネルギーのゾーン別ポテンシャル分析を公表しており、現実的な導入可能レベルの数値として農地活用のソーラーシェアリングが洋上風力その他を抑えて最大のポテンシャルであるとしている。
遮光率3割程度のモジュールを全国農地の1割から2割に設置することで約590GWの発電能力で年間6,900億kwhの発電をするという。これは日本の全消費電力の70%以上にあたり、住宅屋根への導入可能量による発電3,100億kwhと合わせると日本の全電力消費がほぼ賄える。少し遠い将来の洋上と陸上風力発電9,600億kwhとその他や既存の再生可能エネルギー、さらには今後のさらなる省エネ効果を加味すれば、電力消費以外の運輸・熱・産業用などを含めた全エネルギー需要をカバーすることもあながち夢物語ではないかもしれない。その地域で自然エネルギー由来の電力が地産地消できれば、これまで中東依存の化石燃料由来の電力購入資金が域外に流出せず、地元で循環することになる。また小規模分散型の無数の発電所は災害時にめっぽう強いレジリエンスを発揮するだろう。
その仕組みは、すでに日産リーフが実現しているV2H (Vehicle to Home)すなわち日中屋根で発電しEVバッテリーに蓄電した余剰電気を夜間家庭で消費する仕組みを、V2G(Vehicle to Grid)に拡大展開するというもの。V2Gでは電気自動車のバッテリ―が単に家庭の電源に連結されるだけでなく、その地域の配電網すなわち地域マイクログリッドにも連結され、蓄電した余剰電力をグリッド経由で地域に売電したり、ソーラーシェアリングなど地域の再エネ電力が余剰時には安く買電してEVバッテリ―に蓄電し、価格が高い時間帯に売電供給するなどが可能になる。そしてその地域のマイクログリッド全体での再エネ電力の需給調整コントロールをするアグリゲーターの役割を地域新電力会社等が担うというもの。こうすることで地域マイクログリッド全体があたかも一つの仮想発電所(Virtual power plant)のような概念で対象地域全体の電力需給調整がなされる。すでにEU等では珍しくない仕組みで需給調整ノウハウもかなり発達しているといわれる。