2022年6月4日、わくわくソーラーシェアリング・ファームでは初のイタリア人の見学訪問を受けました。現在数か月の予定で京都大学でソーラーシェアリング、イタリアではAgrovoltaicoという、の調査研究中とのこと。北イタリアのピエモンテ州のスイスに近いアルプスのふもとで生まれたとか。なんとトリュフとワインの美食の聖地だ。ミラノでの大学生活を経て現在はシチリア島にある再エネペンチャー企業に所属。洪水の様に受けた質問の中に、コロナ禍にもかかわらずなぜ自分の見学を受け入れてくれたか、というものがあった。
7年ほど前に南イタリアのカンパニア州、ナポリを中心にソレントやサレルノのアグリツーリズモ農家に2週間ほど滞在してイタリアの人々にいろいろお世話になった手前、またタブレットの水彩ソフトでイタリアの風景を描きながら旅した紀行文をいまだにブログに時々書き続けている手前、これは喜んで受け入れざるを得ない。また日本発のソーラーシェアリングを知りたいという海外からの要望に応ずるのはこの上ない喜びでもあった。
2時間半にも及ぶ対話の中で色々聞いたり情報収集したりしてみると、イタリアではこの2年くらいでとんでもなくAgrovoltaico導入と研究の機運が高まってきているようだ。農地から電気と農作物を収穫するにとどまらず様々なメリットが認知され始め、Agrovoltaicoの実験場になって世界のトップランナーになるべく、とにかく先ずはやってみようということらしい。昔スペインの外交官の言葉として紹介されたものに、「イギリス人は歩きながら考える。フランス人は考えた後で走り出す。そしてスペイン人は走った後で考える。」というのがあったが、イタリアも今スペインと同じ陽気な地中海文化圏の一員として、面白そうなので先ずは走ってみようという機運が一気に高まっているようだ。当方のわくわくソーラーシェアリング・ファームを設置した6年前のわくわく感を思い出した。
ちなみに、イタリアのドラギ首相は昨年2021年春、Agrovoltaico導入支援のために11憶ユーロ(約1,500憶円)の資金を準備する、これで2GWの発電力が生まれることを期待していると表明。これらの政策支援のせいか、今年2022年5月からシチリア島では、22ヘクタールの敷地に約10MWのAgrovoltaicoの建設が始まっており、年間20GWhの発電をして約5,000戸の家庭の電気を賄うという。しかも地域密着型にするため地域住民が出資するスキームを採用している。
Agrovoltaicoのとてつもない可能性(huge potential)を認識し始めたイタリア政府は、Agrovoltaicoの承認に要する時間を一般太陽光発電の半分にスピードアップ、その結果2021年の太陽光発電の承認申請の半分以上がAgrovoltaico関係になったという。そしてごく最近、農水大臣がAgrovoltaicoへの投資加速化のためさらに15億ユーロ(2,100憶円)を用意する意思があると宣言している。
一方欧州全体に目を向けても、本年5月ドイツのミュンヘンで3日間開催のIntersolar Europe 2022の会議のタイトルは、Innovative Agricultural Photovoltaic Projects and Technology(革新的営農型太陽光発電とその技術)とあり、この会議自体がAgrivoltaicsを推進し、本年の会議はAgrivoltaicsに焦点を当てたものにすると表明していた。
また、本年6月15日から3日間Agrivoltaics2022というソーラシェアリング(APV)の世界会議がイタリアのミラノ郊外Piacenzaでオンサイトとオンラインで同時開催される。この会議は2020年にフランス、翌年はドイツで開催され今年が3回目で、来年はオランダの予定だ。
さて、そんな動きに圧倒される中でもソーラーシェアリング見学は途切れない質問と共に進んだ。なぜソーラーシェアリング(APV)を選択したか。⇒2011年の福島原発事故を契機に再エネの重要性に目覚めたこと。相続した1ヘクタール水田での稲作は万年赤字で楽しくもないので農地を維持するにはAPV設置が不可欠だった。なぜこのような野菜を選んで栽培したか、そして遮光による収量減はあるか。⇒トマトは好きで料理にも使うので欠かせない。オクラや枝豆、ブロッコリ―、レタスなど近隣スーパーの産直売り場でも比較的良く売れ収益力があるため。33%の遮光ならどんな野菜でも問題なく栽培可能と実感しており日陰野菜の選択は全く考えなかった。収量の減少の実感はないし、むしろトマトなどは昨今常態化した真夏の35度以上では熱で傷みやすく、3割程度の遮光は作物成長にプラスに働いている。もちろん人間にも。昨年のシチリアでは48度の日もあったとか。技術がらみの質問も一段落して、農業や系統接続の許認可を受けるのは大変なのかとの質問。⇒これへの回答は一筋縄ではいかない。先ずは農地規制から。
日本ではそもそも農業以外への優良農地転用は原則禁止されている。ただソーラーシェアリングについては2013年からFIT適用の特例として厳しい条件下で優良農地へ設置が認可できる制度ができた。どんな条件があるか知っていますか、と逆質問すると、なんと、平均的単収を2割以上下回ってはならないこと、3年ごとに写真付きで栽培実績報告と支柱部分の転用申請をすることなどですね、とすらすら回答されてびっくり。かなりな調査研究が進んでいるようだ。さらに驚き感激したことには、当方のソーラーシェアリングに関するブログをグーグルで翻訳表示にしてかなり隅々まで読んでいただいていることが分かった。南イタリアの紀行文にカプリ島の話や水彩画の掲載もありましたね、と言われてさらに感激。私のブログの最も熱心な読者かもしれない。Grazie mille!感謝感激!
これなら話は早い。問題の核心は、その2割という数字。農業単収は様々な要因、例えば気候や病害虫被害などで劇的に変動するし、最も重要な影響は農業技法からくる。例えば窒素化学肥料や農薬を多用する慣行農法と無農薬で堆肥等などのみによるオーガニック栽培や自然農法では収量格差がかなり出る。ちなみに当方のAPV畑では米ぬかともみ殻を発酵したボカシのみを肥料として化学肥料は使用しない。さらに、ビニールハウス農法と露地栽培でも収量格差は大きいし、輪作状況、畝幅や作物間隔、多段栽培法などなど単収変動要因は多様だ。おまけにある作物のその地域での平均的単収の統計数値が十分に公開されていないし、公開分でも実績値の特殊要因による格差が激しい。例えば当方の主力作物であるミニトマトの広島県平均単収は11トン/10aだが、京都や山口県は3トン以下で当方の昨年実績は3.6トンだ。
工場生産の原価率の様に画一的な数値を露地の畑に適用して地域の平均的単収より20%以上少ない生産が続くとパネルの撤去を命令することもあると言われたら、よほどの勇者か物好きな人でないとAPVの新規参入には躊躇する。行政窓口の農業委員会もこの判断と手続きの煩雑さに音を上げてソーラーシェアリングの導入が増えないことを願うだろう。
さらに系統接続(grid connection) に関しては、2020年の太陽光発電制度の改正で大きく環境が変わった。特に50kw未満の小規模低圧発電所のFITによる新設は、その発電した電力の30%以上をその場で自家消費しかつ災害対応もできることがFIT継続の要件となった。30%も自家消費できる一般農家はほとんどいない。そこで政府は年間農業所得500万円以上を目指す担い手農家等であれば30%の自家消費要件は免除するとの特例を作ったが、農業所得500万円以上の農家は私の周りには一人もいない。結果として大多数の平均的小規模農家は、農業と地域を元気にし里山の循環持続に関わり脱炭素にも貢献するAPVの設置という千載一隅のわくわくするチャンスをつかむ術を取り上げられたといえる。小規模農家に残されたかすかな望みは、PPA(power purchase agreement)による個別対面的再エネ売買契約の方式が広く一般化するか、地域ごとのマイクログリッド形成が可能となり電気自動車のバッテリを家庭用電源やマイクログリッドとシームレスに活用することで再エネの地産地消が進み地域のエネルギーを賄える時代が来ることを夢想することぐらいかもしれない。
そして質問はいよいよ佳境に入る。ソーラーシェアリングの将来についてどう思いますか。日本のソーラーシェアリングの未来そして課題について意見を聞きたい。⇒ソーラーシェアリング(Agrovoltaico) の将来は infinietly promising! 無限大の可能性に満ちていると思う。 農家所得の増強と多様化、気候変動による農作物への悪影響の緩和、脱炭素で中東化石燃料依存を減らしエネルギー安全保障への貢献。地域資金流出を抑えつつ循環を促し地域コニュニティを元気にすることで地域分散型経済社会が形成され本来の民主的考え方が根付くなどなど、農業と地域と国と地球環境の循環持続に直接貢献でき、様々なシナジー効果も加わって、わくわくする未来への可能性を引き出す。
一方で、ソーラーシェアリングの日本での将来性に対しては非常に悲観的に感じている。すでに訪問対面されたようですが、APV(ソーラーシェアリング)は千葉県のCHO研究所の長島彬氏により日本から始まったといわれています。その日本でAPVの持つepochmaking な意義がなかなか十分に理解されない。あるいはあえて理解しない力が働いているのかもしれないが、そのあたりがはっきりしない。
イタリアは4基あった原発の全廃を決め廃炉作業中と聞きますが、その全廃の力はどこから来たのですか? ⇒チェルノブイリ事故を受け国民投票で全廃が決まった。その後も小学校から環境教育が徹底されており、スウェーデンのグレタ・トゥーンベリさんなどの環境活動への理解や賛同度合いも非常に高い。福島原発事故などの刺激も加わり、気候変動への危機感と再エネ対応への意識も非常に高まっているという。2019年に決定のEU全体の再エネ電源比率2030年目標の55%は、直近のコロナやウクライナ侵攻を受けて2030年までに再エネ比率63%達成すべしと過激に改定された。これを受けイタリアの個別目標も2030年の再エネ比率を60%から70%へと果敢に高い目標に切り替えた。その影響もありAPVの潜在的規模感と多様なシナジー効果が渡りに船ととらえられて注目されているのだろう。ちなみに日本の2030年目標は38%だ。2030年までわずか7年しかないが最近の増加率は低下気味で全く覇気が感じられないし、APVの膨大な潜在力が再エネ大転換と青息吐息の農業や地方を救うかもしれない可能性に賭ける強力な政策の動きもみられない。APVは農地を失うかもしれないと厳しく規制しながら、皮肉にもその周りでは高齢化と不採算で優良農地がどんどん耕作放棄されている。今、日本は歩きながら考えるどころか、考えもしないし歩きも走りもしない寝たきり状態かもしれない。地球環境は世界の共有物でありタダ乗りは許されない中で、そろそろこんな声も聞こえ始めた。
EU’s renewable energy ambition is a “wake up call” for Japan.
なぜなんでしょうね。日本は何でもやれる力を持っていると思いますけど、との同情の声。
ところで、イタリアは文化的にも自然景観的にも観光資源だらけですが、再エネ発電への批判や反対意見はないのですか。⇒確かにユネスコの世界遺産登録数も世界一であり反対意見は当然にあります。しかし圧倒的なグリーンシフトの流れの中でAgrivoltaicoは生物多様性や農業生産と共存できるものであり、景観とも融合可能な太陽光発電方式としてにわかに注目が集まっている。
石油文明が終わりつつある歴史的大転換真っただ中、最も重要なのは国民の意識すなわち世論と政治政策サイドの洞察力と意思決定力ではないでしょうか。その最も重要な二つの要素が過去10年から20年の間に日本から失われたように思います。特にこの10年、国の将来を展望し果敢な問題解決と意思決定のシンクタンク的バックボーンであったはずの「霞が関」が自由闊達な議論と果敢な挑戦へのパッションを抜かれ、不条理的政治主導に迎合する仕組みが定着した。挑戦にはリスクがつきものだが創意工夫や未来への熱い思いをかきたてる。失敗を恐れ批判的意見が自由に言えない社会や組織では改革や挑戦は生まれない。何もしなければ失敗はないが、今は何もしないことが自分だけでなくすべての人々の未来を失うことにつながる時代でもある。
インタネットを開けば世界のあらゆる情報が手に入る時代だ。この10年日本のあらゆる分野の国際競争力が低下している。なかでも、アジア地域でも最悪となった日本人の英語力。世界が国境を越えて情報共有して理解協力し合う中、日本だけが世界の生情報や事実に疎くなり自分に都合の良い二次情報に浸って眠りこけている。せめて政治や政策立案の最前線に立つ人々には真摯に世界の動きを直接見て聞いて真っ当に国の将来展望を考え、果敢なアクションへとつなげて欲しい。イタリアでは英語の学習はどうするのですか。⇒英語は小学校から教えているがオランダ人やドイツ人の方が断然うまく話す。イタリア人は上手ではないけれども間違いを気にしない。日本に来てからはスマホでのグーグル翻訳を相手と見せ合うことでコミュニケーションせざるを得ないことが多々あるのが寂しいとか・・・
後半は日本の悲観的な話が多く湿っぽくなりましたが、それでも長期的には楽観主義者です。
でないと生きていけませんからね。
そう、私も楽観主義者です。
またいつの日かイタリアのシシリー島でAgrovoltaicoを見ながら語り合いましょう。
おいしいイタリア料理とともに・・・
Ciao!Ivan.
【太陽光発電パネル下での野菜栽培アルバム 2022】
<6月>
<7月>
<8月9月>
<10月>