ソレント中央駅前の小さな親切
ナポリの街は、また旅の後半でゆっくり楽しむとして、取りあえず今夜から1週間滞在するソレント郊外の農家に明るいうちにたどり着かねばならない。Agriturismo La Lobra はソレント中心部から海外沿いに5km程、ソレント半島先端の小さな港町Massa Lubrenseにあるレモン農家だ。ソレントはナポリからベスビオ周遊鉄道という私鉄で約1時間、ベスビオ山の麓をかすめポンペイ遺跡の近くを経由して右にナポリ湾を眺めながらソレント半島を南下する。『帰れソレントへ』で有名な断崖絶壁の小さなリゾート都市だ。
ベスビオ周遊鉄道の終着ソレント中央駅は、高級リゾート都市の玄関にしては殺風景で飾り気がない。お金持ちのリゾート客は列車など使わず高級車で直接断崖の高級ホテルに乗り付けるということだろう。駅前からはソレント半島東側にある、あのアマルフィ―やポジターノ方面行のバスも発着する。相当に狭い駅前のバスプールを大型バスがむりやり方向転換してバスストップの行列を吸い込んて行く。
計画ではここからバスでMassa Lubrenseに行く予定。その先どう宿のLa Lobraに辿り着くか今一つ明確ではない。最悪の場合はタクシーを拾うこととして、取りあえずソレント駅に着いたことを宿に電話しておくべく、スマホで電話番号を発信してみる。通じない。やっぱり!、旅行準備中にAUの窓口で国際ローミングの設定を教えてもらったが、担当者の説明に一抹の不安を感じていたのだ。以後この旅行中、スマホで電話が使えないことが微妙な不便をもたらすこととなるに違いない。気を取り直し駅前広場にある公衆電話ボックスへ。コインを入れ番号押すも反応がない。徐々にいら立つ気持ちを抑えてすぐ横のフレッシュオレンジジュースの屋台スタンドのお兄さんにこの電話機故障していないか聞いてみた。すると、スタンドのお兄さんと喋り込んでいたいかつい顔の中年紳士が ゆっくりとジャケットの胸から携帯電話を差し出してきた。これを使えということらしい。 これは想定外の有り難い申し出だった。無事に宿への連絡を終えて丁寧にお礼を言うと『Prego(どういたしまして)』と言って何もなかった様にまたジューススタンドのお兄さんと猛烈に話込み始めた。これがイタリアか・・・Viva Italia!
『今日は道が混んでいて遅くなった』、電話してから30分ほどしてソレント駅前まで迎えに来てくれた La Lobraの男主人が英語で言った。スキンヘッドでぎょろりとした目のそのお兄さんは寡黙に車を運転しながら今夜のディナーは食べるかと聞いた。『Yes,Please』。ディナーは8時からだという。すでに夕方6時を回っていたが、6月のイタリアは夜8時を過ぎても明るい。家族経営の農家宿なので、この時間帯は彼も夕食の準備で多忙を極めていたに違いない。そんな中、往復1時間を一人ものの旅行者に割いてもらって申し訳ない気がした。
バス停留所のあるMassa Lubrense (マッサ・ルブレンセ)の街の中心は港から結構急傾斜の山を登った高い位置にある。周りは大半レモン畑とオリーブ畑だ。レモンやオリーブの木越しに青い地中海に浮かぶ島々がはるかに見える。左からカプリ島、イスキア島そしてプロチーダ島だろうか。
車は広く綺麗に整備されたタウンセンターから、急に狭く曲がりくねった細い道を対向車を気にしながら急激に下った。700mほど坂道を下ると突然目の前が開け小さな港に着いた。Marina la Lobraの港だ。宿はマリーナから100m登ったレモン林の中にあった。
①アグリツーリヅモと水彩スケッチの旅 / ③小さな港町のレモン農家での朝食