南イタリアの旅④・マッサ・ルブレンセの丘で描く

今回の旅は先を急がない。このマッサ・ルブレンセのアグリツーリズモ農家にも約一週間滞在する。ここをベースにソレント、カプリ島、ポジターノ、アマルフィなど名だたるスポットをゆっくり探訪する予定だ。今日は天気も良い。まずは宿の前に広がる丘を縦走して紺碧の地中海の眺めを満喫しよう。そして夕方余裕があれば、雑誌の記事で気になったソレントのマリーナ・グランデにあるトラットリアで夕食とする。

Massa Lubrense はソレントの郊外

宿を出て車一台がやっと通れる細く曲がりくねった道をぐんぐん上って、丘の中腹にあるMassa  Centroに向かった。そこからマリーナ・ラ・ロブラを大きく取り巻くように高い丘をトレイルしてまたMassa Centroにもどる計画だ。 Centro近くの石畳の道路脇にはVia Romaという道路名の標識、ローマ時代にも使った道なのだろうか。ここに滞在の一週間で、何回もこの道路を通い道路脇のお店や石崖などが次第に馴染んでいった。
街の外れにあるグロッサリーで店先に並んだバナナとクッキーさらに飲物を買い込みリュックへ。いざレモン畑からオリーブ畑へと続く細い遊歩道に取りつく。通路脇をきょろきょろしながら急激に高度をかせぐこと半時間余り、視界が開け小さな村の教会の方に向かう車道に出た。

ここからは、丘の稜線を行く。ときどき民家の庭から鶏の鳴く声がする。地図には数カ所眺望良しのマークがついている。小さな古い教会を囲むように数件の家がちょっとした街角と広場を形成する集落を2つ通り抜けて、岬の先端の様な高台の広場に出た。一瞬そこからの眺望に息を飲んだ。
足元から大きく切れ込んでその下の斜面一面に緑のオリーブ畑が広がり、ところどころレモン畑の黒い網と突き出た杭、そして白い建物の点在がアクセントを着けている。もちろんその向こうに紺碧の地中海が広がり青い空と合体している。水平線にうっすらと明日行く予定のカプリ島が浮かび、ソレントやナポリから行き交うクルーズ船の白い航跡が何本も連なっていた。

この眺望を独り占めにしながら、芝生で昼の腹ごしらえをする。本当に贅沢な時間だと思う。こんな素敵な眺望が惜しげもなく広がるのに、観光客はここまではほとんど来ない。と思ったら後ろの方で声がした。若いアメリカ人らしきカップルがニコニコしながら寄ってきた。
『あの先端であなたの写真をとってあげるから、俺たちの写真も撮ってもらえませんか?』
『もちろん、喜んで!』
『僕は写真を撮るのは上手いんだ』とその若者は位置をかえながら何枚も取ってくれたが、どれも南イタリアのあふれかえる光に負けて顔が真っ黒に映っていた。

ソレント半島はどこまで行ってもオリーブとレモンの畑で覆われている。オリーブの木は幹の下が黒い網で囲まれている。収穫時には網を広げて木を揺らし落ちる実を受けて収穫するためだ。またレモンの木は大きな実で重くなる枝を支える杭と張りがめぐらされ、鳥よけだろうかその上に黒い網がかかっている。こうして、農家に滞在すると自家製のオリーブオイルとレモンチェロという強いお酒が定番となる。うっそうとしたオリーブ林を下ると、海を見下ろす丘の中腹にあるLiberatore教会の庭先に出た。眼下に朝食前に散策したマリーナ・ロブラの港の教会や街並み、そこから少し右に登ったレモン畑の中に宿泊中のAgriturismo La Lobraの建物、さらに右上に登って緑の丘の中腹にMassa Centroが青い地中海と対峙しながら見事に収まっている。これぞ永らく妄想していたイタリアの海岸風景ではないか。しかもベンチ付きとくれば、下手な絵でも画かない訳にはいかない。それから小一時間、夢中でSurfaceタブレットにタッチペンを走らせ続けた。滞在中のアグリツーリズモ農家La Lobraも絵の右端中央にとらえた。至福の時だった。

Massa Centroからバスで30分ほど、断崖絶壁の上にある街ソレントにいた。20m近い絶壁が続く東の端に崖のない海辺のマリーナ・グランデがある。ここも絵になりそうなたたずまいだが時間が足りない。トラットリア・エミール・ダルは波打ち際にせり出したカジュアルなお店だ。ナポリ湾の向う遥かにベスビオ山が夕陽に染まり始めている。サーモンとルッコラをオリーブオイルとビネガーでマリネしたものだろうか、シンプルだが本当に美味しい。足元の波音と客のイタリア語のざわめきが心地よい開放的な雰囲気を作っている。突然前のテーブルにいた夫婦が振り向いて、写真を撮り合おうと言った。今日はこの手が多い日らしい。
気持ち良く食べ終わったころ、ふと気が付くとベスビオ山当りが異様に黒々として時々ピカッと光っている。激しい夕立の予感で、すぐにタクシーを呼んでもらった。宿のあるMarrina Lobraに着いた頃には、猛烈な土砂降りになっていた。狭く急な道はまるで川の様だ。ほどなく雨は止んで、昼過ぎに絵を描いた高台の教会の十字架が明るく光ってこちらを見下ろしていた。イタリアを満喫した一日だった。

昼過ぎに絵を描いた丘の上の教会、土砂降りのなか十字架が光っていた

昼過ぎに絵を描いた丘の上の教会、土砂降りのなか十字架が光っていた

だが、実はソレントのトラットリアに行く前に、この旅最大のハプニングが起きていた。ソレント駅前のD銀行でATMからVISAカードで現金を引き出そうとして暗証番号を一回入力ミス、一瞬10秒余り考えていると機械が動いてカードがスッと引き込まれて消えた。液晶画面には『We retain your card due to time out』といった様な表示が見えていた。その後いくら待っても動きはなかった。後ろで待っていたドイツ人らしき若者が
『Something Wrong?』と聞いてきた。
『暗証番号を一回入力ミスして、一瞬考えていたらカードが拘束されてしまって出てこないんですよ。』
『え!それはいけないな。リスキーだから僕はここを使うのはやめときます。I  wish you good luck!』と言って去って行った。
今日は土曜日で銀行窓口は閉まっている。月曜日に銀行と交渉するしかなかった。幸い一週間滞在中で時間は十分にあった・・・

 

南イタリアの旅③小さな港町のレモン農家での朝食 / 南イタリアの旅⑤カプリ島のラビリンス

 

南イタリアの旅④・マッサ・ルブレンセの丘で描く」への4件のフィードバック

  1. MARU

    先日オフグリット四つ葉自然堂農園に参加したMaruです。
    名刺を昼食時に頂いたので、数ページを楽しく興味深く観覧させていただきました。
    スケッチもされるんですね。
    イベントも盛りたくさんありますね。
    ぜひ参加させて頂こうと考えております。
    それでは、またの機会に。

    返信
    1. 重家雅文

      Maru様、閲覧有難うございます。
      イタリア紀行はまだ始まったばかりで、これからも次々下手な絵を掲載する予定です。
      わくわくソーラーファームや仙石庭園セミナーでお会いしましょう・・・

      返信
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  3. ピンバック: サバのソテー、南イタリア風 | わくわくマネーカフェ

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